●中国の原子炉:稼働中原子炉は17基を数え、すべて沿岸部
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JB Press 2013.07.23(火) The Economist:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38278
中国の反原発運動:拡大を恐れる政府
(英エコノミスト誌 2013年7月20日号)
中国ではまれな抗議行動をきっかけに、地方政府がウラン処理施設の建設計画を白紙に戻した。
中国でも反原発の気運が高まるのだろうか?
「原子力による汚染を許さない」
「緑の故郷を返せ」。
7月12日、中国南部の広東省江門で数百人規模の抗議行動が起き、このような横断幕が掲げられた。
驚いたことに地方政府は譲歩し、デモ隊の要求を受け入れてウラン処理施設の建設計画を白紙に戻すと発表した。
原子力開発の推進と
抗議活動の抑え込みに躍起な北京の中央政府にとって、今回のデモは潜在的なトラブルを予感させる、不安をかき立てる出来事だった。
1980年代半ばに中国で原子力発電所の建設が始まって以来、
原子力産業関連のプロジェクトに対する大規模な抗議行動が起きたのは、知られている限り今回が初めてだ。
7月14日、住民は再び街に繰り出し、江門市政府の庁舎を取り囲んだ。
60億ドルに相当する規模のこのプロジェクトが、ひとまず延期されただけではないかと憂慮したためだ。
市の共産党トップ、劉海氏が市民の前に現れ、
計画は完全に白紙撤回されたと再度明言した。
これほど大規模なプロジェクトで、当局が一般市民の懸念をここまで素早く聞き入れるのは珍しい。
原子力関連のプロジェクトでは前代未聞だ。
江門市の政府当局は恐らく、抗議行動がエスカレートし、2007年の廈門や2011年の大連で起きた大規模な化学工場プロジェクトへの反対運動と同等の規模に達することを恐れたのだろう。
どちらの抗議行動も数千人規模に達し、譲歩を引き出すことに成功している。
また、江門の騒動は近隣の香港の世論に煽られる恐れもあった。
香港は中国本土と異なり、原子力反対運動の長い歴史がある。
■福島第一原発の事故で国民のムードが一変
2011年3月に福島第一原子力発電所の事故が起きるまで、中国では、原子力産業を急速に拡大するという政府の壮大な計画に楯突く者はほぼ皆無だった。
環境保護運動は拡大していたが、こうした運動は廈門、大連のような化学工場プロジェクトや産業廃棄物の不法投棄への抗議が中心だった。
この時点で13基の原子炉が稼働しており、
政府は2020年までにこれを100基に増やすという目標を掲げていた。
福島第一原発の事故を機に国民のムードが変わった。
ソーシャルメディア、特にツイッターに似たサービスである微博(ウェイボ)も、原子力への不信感拡大に一役買った。
こうした動きに加え、原子力産業の安全性に対する世界的な見直しの機運を受けて、中国政府は原発建設の一時停止を命じた。
2012年10月には建設プロジェクトの再開が認められたものの、
内陸部に建設予定だった約30基については、少なくとも2015年まで引き続き保留されることになった。
現在、中国の原子炉(現時点で17基を数え、いくつかの場所にまとめて建てられている)はすべて沿岸部にある。
燃料棒の冷却や、事故発生の際に生じる放射能汚染を薄めるための海水を大量に確保できるからだ。
政府は建設プロジェクトの一時停止の理由として世論を挙げている。
これまでには考えられなかった理由だ。
江西省彭沢県の長江南岸に原発を建設する計画が、その中でも大きな議論に発展した。
県当局は、彭沢県を内陸部で最初の原発建設地にしたいと考えていた。
当局は地元の誇りとなる新たな目玉施設として原発に期待をかけ、建設予定地についても、希少種のシカが生息する自然保護区からほど近い緑豊かな一角に以前から目をつけていた。
江西省当局も、この原発を長江の支流に建設予定だった別の原発と併せて「2つの核」と名付け、エネルギー不足に苦しむ同省の開発の原動力になるものと期待をかけていた。
もしすべてが計画通りに進んでいれば、彭沢の原発は2015年に発電を開始するはずだった。
米国の設計による加圧水型原子炉AP1000(福島第一原発のものより安全対策が充実しているとされる「第3世代」の原子炉)を採用し、最終的な発電容量は8ギガワットに達する予定だった。
8ギガワットは、2012年末の時点における江西省の原子力以外の発電量(主に石炭による火力発電)の4割近くに相当する。
■地方政府や国有企業は原発建設の夢を捨てていないが・・・
投資に貪欲な地方政府に加え、プロジェクトの背後にいる国有企業も、原発建設の夢をまだ捨てていない。
福島第一原発の事故が起きる以前の段階で、村民の立ち退きや丘陵地帯の整地といった準備に既に数億ドル相当の資金が注ぎ込まれていた。
建設予定地一帯は現在も柵で覆われ、警備されている(予定地の周囲には青い大きな看板が立てられ、そこには
「すべてのリスクは管理可能、すべての異常は排除可能、すべての事故は回避可能」
と書かれている)。
原子力エネルギーに関して政府の上級顧問を務めるある人物は6月、内陸部のプロジェクトは2015年以降、「着実に」再開されると発言している。
長江の対岸にある磨盤村の人々は憂慮している。
漢方医の洪増智さんは「福島第一原発の事故が起きるまで、誰もあまり注意を払っていなかった。
事故以降は恐れが広がった」と話す。
洪さんの診療所のバルコニーからは、川の向こうに彭沢県の原発建設予定地が見える。
洪さんは2009年に工事が開始される前、原発の建設に反対したが、当時その意見に反対した村の幹部は日本で大事故が起きた後、洪さんに謝罪したという。
元獣医のウー・デュオロンさんは、汚染水が長江に流れ込むことを心配している。
ウーさんは汚染水の危険性について次のような詩をつづっている。
「春の川は東へと流れる。一握りの家族が喜び、百万の家族が悲しむ」
こうした地元住民の懸念はあるものの、中国の反原発運動は概ね目立たないものにとどまっている(先の江門での抗議行動は例外的な出来事だった)。
環境関連の非政府組織(NGO)は原子力が政治的に微妙な問題であることを認識しており、ほとんどがこの問題を避けている。
ところが2011年後半、磨盤村が属する望江県の幹部だった4人の人物が中央政府に嘆願書を提出し、プロジェクトの打ち切りを求めた。一帯は地震活動が多く、原発は地元住民を危険にさらすというのが、4人の主張だった。望江県当局も彼らの主張を反映した報告書を作成し、これがインターネットに掲載された。
経済面などを含め、各地方の間に存在する競争意識が、幹部の意見表明を後押しした可能性はある。
望江県は江西省ではなく安徽省にある。
彭沢県は、数千件の新規雇用など、プロジェクトから大きなメリットが受けられるはずだ。
一方、長江をフェリーで渡れば30分の距離にある望江県はほとんど恩恵を得られない。
■不満の飛び火を恐れる中央政府
もし反原発運動が地方政府同士の舌戦や、江門の例に見られるような、地域エゴが時たま噴出するレベルにとどまれば、中央政府は安心だろう。
ただし、江門の住民が白紙撤回を勝ち取ったことで、他の人々が勇気づけられるリスクもある。
こうした運動を研究するベルリン工科大学のエバ・シュテルンフェルト氏は
「原発プロジェクトが計画されているあらゆる場所で、同じような抗議行動が起きる可能性はある」
と話す。
こうした抗議行動は中国の原子力計画を困難にするだけでなく、中央政府に、より懸念すべき事態に対する恐れをもたらすかもしれない。
反原発運動が反政府運動の隠れみのになるという懸念だ。
これは台湾に前例がある。
1980年代、独裁政権と対立関係にある反体制派が原子力に対する人々の不安を巧みに利用し、自らの主張への支持を集めることに成功した。
中国共産党はそのような危険を冒したくないはずだ。
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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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「反原発運動が反政府運動の隠れみのになる」
ということは、当然、「尖閣デモ」は反政府運動に利用されることになる。
昨年の今頃から8月にかけて中国では「尖閣デモ」が吹き荒れた。
これは中国当局が仕組んだ官制デモであった。
さて、1年たった今、それを記念するデモを7月から8月にかけて企画してもいいはずである。
しかし、当局のそれができるであろうか。
絶対に無理になっている。
もはや中国には大規模デモを実行するだけの度胸がなくなっている。
この1年で、情勢はまるで変わってしまっている。
尖閣デモはこの記事、2012年7月13日付け共産党機関紙論評、からはじまっている。
『
サーチナニュース 2012/07/13(金) 17:46
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0713&f=national_0713_060.shtml
中国共産党機関紙が論評、尖閣、武力衝突の可能性示唆
【北京共同】13日付の中国共産党機関紙、人民日報は野田政権の尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化方針などについて
「釣魚島問題を制御できなくなる危険性がある」
と武力衝突に発展する可能性を示唆し、
「日本の政治家たちはその覚悟があるのか」
と挑発する論評を掲載した。
尖閣諸島問題について、共産党機関紙が武力行使示唆まで踏み込むのは異例。
中国の強硬姿勢を強調することで、日本側の動きをけん制する狙いがあるとみられる。
(情報提供:共同通信社)
』
これから8月のデモが誘発されるのであるが、共産党機関紙が武力行使示唆まで踏み込みながらもこの1年で何も起こっていない。
せいぜいのところ
「巡視船と戦闘機の鬼ごっ子」だけである。
大言壮語の結果としては実に寂しい。
またそれだけでなく、1年目を記念する動きも伝わってこない。
中国政府は逆にいかに様々なデモを抑えこむかのほうに警戒心を顕わにしている。
おそらく、何かイベントが行われるであろうが、どうもパワーに欠けているように予想される。
もはや当局は、国内事情のほうが大きく、本当のところ尖閣問題などなくなって欲しい、と思っているのではないだろうか。
日本はそれに乗じて挑発して、中国を苛立たせ、大声をたたさせ、
それをもってやはり中国は危ない、防衛力を強化しないといけないと票集めしている。
日本にうまくしてやられ、のせられて踊りまくっているのが中国といった感じしないでもない。
『
レコードチャイナ 配信日時:2013年7月25日 23時41分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=74741&type=0
腐敗、格差、不公平…もうたくさん、中国政府への不満爆発か
=相次ぐ暴力事件―中国
●25日、中国ではこのところ、無差別の暴力事件や傷害事件が相次いでいる。20日に北京首都国際空港で発生した爆発事件のほか、同市スーパーマーケットでの刺殺事件、広西省での刺殺事件など、暴虐な事件が頻発している。資料写真。
2013年7月25日、中国ではこのところ、無差別の暴力事件や傷害事件が相次いでいる。
20日に北京市の北京首都国際空港で、車椅子に乗った男性が手製の爆発物を爆発させた事件は記憶に新しい。
これ以外にも、同市のスーパーマーケット・カルフール馬連道店では刃物を持った男が来店客を次々と刺し、1人が死亡。
また、広西省では4人目の子供の住民登録申請時に一人っ子政策のために罰金の支払いを求められたことに反発した男性が計画出産当局に乗り込み、職員を刺殺する事件が発生している。
このような暴虐な事件は不満が爆発するかのように頻発している。
米華字メディア・多維新聞が伝えた。
英紙『ガーディアン』は北京首都国際空港の爆発事件を取り上げ、事件を起こした男性は出稼ぎ先の広東省で治安要員に殴られ障害を負い、損害賠償を求めて当局を提訴したが敗訴、その後も陳情を行っていたが相手にされず、精神的に追い込まれていたと伝えた。
政府当局から一般庶民が非道な扱いを受けることは日常的に起きており、
土地を失っても補償を受けられなかったり、
医者に病気を診てもらうためには賄賂が必要不可欠だったり
と理不尽なことは多い。
そして、自分たちが権力によって強引に法を守るよう要求されている一方で、
役人らは法を犯しても罰せられることはないのを誰もが知っている。
それが問題を引き起こしているのだ。
韓国メディアによると、所得の格差を示す指標であるジニ係数を見ると、
中国は2012年に既に「0.49」に達している。
ジニ係数は0から1で示され、1に近づくほど格差が大きく、
「0.4以上」は社会騒乱が多発する警戒ライン
と認識されている。
仏メディアは、中国の経済成長率は鈍化しつつあり、中産階級がこれまでのように急速に拡大することは難しく、成功できなかった者の多くは「チャイナドリーム」が自分たちには手の届かないものであることを痛感。
その結果、社会で不満や恨みが発散されていると指摘した。
そして、政府にはびこる腐敗の深刻化は、挫折した人々の絶望感を助長している。
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こういう状態ではやはり、「尖閣デモ 一周年記念大会」を開くことは不可能のようだ。
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ロイター 2013年 07月 22日 16:22 JST
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE96L05Q20130722
国際政治学者イアン・ブレマー
コラム:中国で整う「デモの条件」、新興国揺るがす嵐到来か
新興国では、市民による突然の予期せぬ抗議デモは不可避となりつつあるようだ。
ブラジルとトルコでは中間層が政府のやり方に反発してデモが発生し、政権支持率が急激に下がった。
エジプトでは、経済情勢が政局と同じぐらい見通しが立たないなか、モルシ大統領の解任によって対立と混乱に拍車がかかった。
新興国を揺るがすこうした抗議デモの次なる発生地は中国と思うかもしれない。
新たに生まれた中間層が社会保障の改善や政府の透明性向上を要求しているだけでなく、過去数四半期は経済成長が減速するなど「デモの条件」はそろっているからだ。
しかし、息を詰める必要はない。
中国は新興国のライバルたちに比べ、少なくとも当面は、こうした問題にはるかに取り組みやすい環境にある。
経済面から見てみよう。
これまで長い間、専門家や中国政府当局者らは、中国は国内総生産(GDP)の伸び率が8.0%を下回れば、失業危機の引き金となり、社会不安や政治不安のリスクが高まると考えてきた。
ところがだ。
中国の楼継偉財政相は先週にワシントンで、同国経済はGDP伸び率が7%や6.5%になったとしても大丈夫だと述べた。
他の多くの新興国と違うのは、中国が経済成長の減速を対応可能な課題と見ている点だ。
政府は実際、改革と不均衡是正の目標を達成するには、成長鈍化は必要だと認識している。
とりわけ政府が望んでいるのは、成長減速が産業の再編成を促し、資源消費を抑えることだ。
そうなれば、政治的に大きな不安定要因になっている環境悪化にも歯止めがかかるかもしれない。
経済成長の減速はまた、都市部住民の不満の種となっている不動産価格の高騰を落ち着かせる効果もあるだろう。
中国の新しい指導部は、こうした問題での進展は、成長鈍化による失業率上昇で直面するダウンサイドリスクを補って余りあると確信しているのだろう。
グローバルな視点で言えば、 中国の景気減速は実際には良い兆候だと判断すべき確固たる理由がある。
中国政府が経済成長を維持するための反射的な資本投入をしていないという事実は、彼らが緩やかな経済改革を受け入れ始めた証しだ。
バブルが弾けるほど膨らむより、小さくなるのを良しとしているのだ。
このアプローチは、今年3月に発足した新指導部の特徴と言える。
彼らは前政権に比べてリスクを回避しない傾向が強く、中国が将来にわたって向き合わなければならない経済的変化を見据えている。
剛腕で、即断即決型の政治家である習近平氏が国家主席であることが、中国を楽観視する理由の1つだ。
彼は前任者たちに比べて自発的でカリスマ性があり、中国のブログコミュニティーでも第一印象としては前向きな評価が与えられている。
大胆な性格で共産党内での支持基盤を強化しており、うまくいけば将来のさらなる改革に向けて一段と大きな力を持つだろう。
だからと言って、中国の安定を当然視したり、今後も一切問題ないと考えるべきではもちろんない。
短期的には不安定さに直面していないというその事実が、油断をもたらし、必要な改革を遅らせる余地を生むかもしれないからだ。
中国が途上国から先進国になるためには、やはり長期的かつ大幅な経済的・政治的転換が必要だ。
過去30年間、中国にとって経済成長は、あたかも木の低い位置にぶら下がっている果実のごとく手にするのが簡単な目標だった。
新指導部は今、木の上の部分に手を伸ばそうとしている。
しかし、高い枝までには、まだかなり長い道のりがある。
中国にとって別の大きな脅威は、どんな発展途上国も通らなければならない社会の階層化だ。
これまでも指摘してきたように、中国の経済成長は新しい中間層を生み出した。
彼らの要求は、貧困から抜け出そうとしている農村部の望みとは違う。
新指導部の景気減速に対する寛容さは、短期的には、こうした問題の解消に役立つという点でポジティブだ。
しかし、いずれ中国政府は、新中間層と農村部という異質な2つの層を調和させなくてはならない。
これは、長期的に取り組むべき問題だが、もし手つかずのまま放置されれば、社会不安の可能性は高まる。
新興国で広がる抗議デモが中国にも飛び火するとの主張や、中国の経済成長鈍化がハードランディングの差し迫ったサインだという話は無視していい。
中国の短期的な展望は驚くほどに明るい。
しかし、その背後にはさらに大きな問題が依然として控えている。
習近平政権は、嵐がまだ遠い場所にある間に、立ち込める暗雲を払うことができるだろうか。
(19日 ロイター)
*筆者は国際政治リスク分析を専門とするコンサルティング会社、ユーラシア・グループの社長。スタンフォード大学で博士号(政治学)取得後、フーバー研究所の研究員に最年少で就任。その後、コロンビア大学、東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所などを経て、現在に至る。全米でベストセラーとなった「The End of the Free Market」(邦訳は『自由市場の終焉 国家資本主義とどう闘うか』など著書多数。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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[減速する成長、そして増強される軍備]
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