2013年8月20日火曜日

キャロライン・ケネディ氏への日本入門書

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●キャロライン・ケネディ氏


ウオールストリートジャーナル     2013年 8月 13日 15:05 JST
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324539604579009892800437178.html
By     MICHAEL AUSLIN

【オピニオン】キャロライン・ケネディ氏への日本入門書

 キャロライン・ケネディ氏にとって、たとえ米政界で最も有名な名前を持っていようとも次期駐日米国大使への指名をめぐる批判は免れないようだ。
 さまざまな政治分野の評論家がケネディ氏の資質に疑問を唱(とな)えたり、今日のワシントンでは著名人であることや資金調達力が物を言うことを示す証拠だとして同氏の指名を公然と非難したりしている。

 ケネディ氏の指名が上院で承認されるのは間違いないだろう。
 しかし、ケネディ氏は指名承認公聴会で、今後数年で日本が転換期を迎えること、そして米国もアジアで転換期を迎えることを自身が理解していることを示せば、自らに対する批判を黙らせることができるだろう。

①.まず1つ目は、日本は20年に及ぶ政治的再編サイクルを終わらせつつあるようにみえることだ。
 存続可能な2大政党制に対する高い期待は実現されそうにない。日本の有権者は衆参両院に対する一党支配を望んでいるようだ。民主党の無能さと果たされない公約に対する有権者の失望を受けて、1955年から2009年までほぼ途切れることなく政権を支配していた自民党が政権の座に返り咲いた。自民党率いる安倍晋三首相が同様に経済成長と改革を達成できなければ、日本の有権者は恐らくイタリアのように永続的に分裂した政治システムを選択するだろう。そうなれば、真の安定した政治的再編は決して達成されることはないだろう。

②.2つ目は、日本が90年のバブル崩壊以来最も重要な経済改革に向けた岐路に立たされていることだ。
 20年余りに及ぶ経済刺激支出や輸出主導型の戦略、規制の手直しは持続可能な成長を生み出すことも、デフレの脅威を終息させることもできなかった。安倍氏は12月の首相就任以来、財政刺激策や金融緩和策を実施し、それらは短期的に景気を浮揚させている。次に安倍氏がすべきは有意義な改革による成長刺激、規制緩和、労働市場の開放だ。もし失敗すれば、本格的な改革による日本の再生への期待は失われる可能性がある。

③.3つ目は、日本では未曽有の人口減少が始まっており、いずれその社会構造が試されることになることだ。
 世界で最も急速に高齢化が進む日本にとって、最大の課題は十分な労働力を確保し、経済を継続的に成長させ、増加し続ける年金負担額をまかなうのに十分な税収を得られるようにすることだ。今後日本が迎えるような急速な人口縮小を経験したことのある主要先進国はまだなく、日本の政策的アプローチはアジアと欧州双方の政府にとって教訓となるだろう。

④.4つ目は、ケネディ氏の任期中に日中間で何らかの軍事的衝突がみられる可能性が高いことだ。
 東シナ海の尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる争いは解決にはほど遠く、中国は脅し戦術を続け、諸島に対する支配を維持する意欲が日本にどれだけあるか、ゆっくりと探りを入れている。両国から派遣された艦船や飛行機は互いの距離を縮めつつあり、誤算や事故が起きる可能性は危険なほどに高まっている。何らかの衝突が発生した場合、日本の唯一の全面的な同盟条約国である米国はその争いに引き込まれることになるだろう。そのとき米国の公の顔となり、日本政府との重要な連絡窓口となるがケネディ氏だ。

⑤.最後は、米日関係が多くの難題に直面していることだ。
 中国や韓国、ロシア、北朝鮮との対立は日本の外交政策を悩ませており、米国政府の日本に対する後ろ盾に何らかの変化の兆しがないかどうか、日本政府は神経質に見守っている。したがってケネディ氏は、米国の軍事予算が減少し続ける中で、日本政府にアジアでの米国の役割をあらためて伝え安心させる必要がある。さらに、在日米軍、特に沖縄の海兵隊の再編に関する協定を安倍政権に確実に順守させるための連絡窓口となるのもケネディ氏だ。さらにケネディ氏は日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加にもかかわることになるだろう。その任務は、自由貿易のメリットを明確にし、安倍氏が国内の農業や製造業ロビー団体からの反対に対抗できるよう手助けすることだ。

 上院での指名承認公聴会では、日本が直面する脅威や太平洋地域での米国のプレゼンスに対する制約についてのケネディ氏の理解度が問われることになるだろう。ケネディ氏は、米軍のホスト国やアジアでの公共財の提供者としての日本のユニークな役割に対して感謝を示すことで、ワシントンと東京双方のオブザーバーを安心させることができる。さらに、同盟の弱点や不穏さが増す地域での二国間協力の強化の必要性について論じることで、自らの真剣さを示すこともできる。ケネディ氏は米国大使として、日本に世界第3位の経済を堅調に維持するプランがあるか否か、また今後数年で日本と中国が平和的に共存するようになるのか、あるいは紛争へと後退していくのかを目撃することになる。

(筆者のマイケル・オースリン氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長で、wsj.comのコラムニスト)





減速する成長、そして増強される軍備


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