●新興国通貨の中でもインドルピー(写真)とインドネシアルピアの急落が際立っている〔AFPBB News〕
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JB Press 2013.08.22(木) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38517
アジア新興国に忍び寄る90年代の危機の亡霊
(2013年8月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
2008年の危機と輸出先である西側市場の失速に、中国は同国史上最大の景気刺激策で応じた。
だが、その代償は大きかった。
中国は現在、一部エコノミストいわく
債務総額の国内総生産(GDP)比を200%超に膨らませたツケ
と奮闘している。
中国の事例は債務を使って経済成長率を高めた最も極端なケースだが、
実はアジアの各地で繰り返されてきたパターンでもある。
輸出がなくなると中央銀行が金融を緩和し、家計と企業の借り入れが急増するというパターンだ。
■金融緩和で家計と企業の借り入れが急増
米連邦準備理事会(FRB)が現在、超金融緩和政策の転換を検討していることから、
アジア諸国は積み上がった債務をどうするかという新たな難問に直面している。
そしてFRBの政策転換の影響を投資家が推し量るなか、1997~98年のアジア金融危機の亡霊が再び目を覚ます状況になっている。
「QE(量的緩和)のマネーは、アジアで大規模な信用インフレバブルを引き起こした」。
大和証券で地域担当のチーフエコノミストを務めるケビン・ライ氏はこう指摘する。
「犯罪が実行されてしまった以上、我々はもうその結果に対処するしかない。
その過程ではかなりのダメージがもたらされるだろう
・・・マージンコール(追い証)のようなものだ。
家計は資産の売却を迫られ、富の破壊がかなり行われることになる」
アジア金融危機の再来を思わせる現象は容易に見つけることができる。
信用残高は2008年以降急増しており、住宅価格が上昇したり、高い経済成長率が達成されたり、大型M&A(企業の合併・買収)が実行されたりするに至っている。
調査会社ディールロジックによれば、タイでは今年4月に、国内では史上最大の企業買収取引と同国史上最大の株式上場が相次いで記録されている。
■1990年代のような通貨・信用危機を懸念する声
しかし、外国の低利資金がアジアの新興国から引き揚げられるなかで、複数のアナリストは、アジアは1990年代に経験したような通貨・信用危機の入り口に立っているのかもしれないとの警告を発している。
これまでのところ、そうした関心の大半はインドとインドネシアに向けられてきた。
どちらも過去最大の経常赤字を計上しており、外国資本への依存度が最も高くなっているためだ。
両国の通貨と株式市場はここ1週間急落している。
しかし、エコノミストらによれば、アジア各地に伝染するリスクは高まり始めており、
アジア最大の成長エンジンである中国の景気減速が事態をさらに悪化させているという。
定義の上では第2四半期に景気後退入りしたタイでは、家計債務のGDP比が2009年の55%から現在のほぼ80%へと大幅に上昇している。
金融大手HSBCがまとめたデータによれば、債務総額のGDP比は現在180%だという。
石油に恵まれたマレーシアでも債務残高は同様に増加しており、消費・住宅ブームに寄与している。
しかし最近は貿易関連の数字が悪化しており、10年間続いている貿易黒字が今年は赤字に転じる可能性も浮上している。
また先週にはインドネシアが、経常赤字が急拡大したことを明らかにした。
1996年以来の規模の赤字であり、コモディティー(商品)の輸出額の落ち込みがその主因だという。
■レバレッジで経済成長を買ったアジア諸国
「今後2~3年は経済成長率が伸び悩むことになるだろう」。
HSBCのアジア担当チーフエコノミスト、フレッド・ニューマン氏はこう語る。
「アジア経済がこれまで順調だったのは、レバレッジで経済成長を買ったからだ。
あの時間は構造改革を実行するのに使うべきだったのに、彼らは低利で調達した資金を使って高成長を謳歌した。
その機会はもう失われてしまった」
アジア各地での成長減速は生産性が低下している証拠でもある。
信用強度(1単位の経済成長を生み出すために必要な債務を示す指標)はほぼすべての国で急騰した。
香港では2007年以降3倍近くに上昇し、シンガポールでは4倍以上に跳ね上がった。
シンガポールのユナイテッド・オーバーシーズ銀行で経済・財務調査部門のトップを務めるジミー・コー氏は
「この新たな信用の多くがアジア地域の住宅と不動産に流れ込んでいる。
この分野は決して生産性が高い分野ではなく、システムに新たな価値をもたらさない」
と指摘する。
政策立案者にとっては、信用増加と成長率低下は対策を講じる余地をほとんど残してくれない。
インドネシアは自国通貨の急落を防ぐために利上げに踏み切る一方、
インドはルピーを下支えするための対策を講じた。
今のところ、どちらの措置も望んだ結果をもたらしていない。
「選択肢は、自国通貨を守るか、自国の成長を守るか、だ。どちらか一方しか選べない。
ここから抜け出す簡単な方法はない」
と前出のライ氏は言う。
■15年前とは大きく変わったが・・・
こうした不安には馴染みがあるかもしれないが、過去15年間でかなり多くの変化があった。
1997年当時、債務負担は主に無理をしている大企業が背負っており、苦しんだのは現在所得の増加と健全な利益を享受している家計と小企業ではなかった。
アジアの債券市場にも大きな進展があり、過去のような短期のドル建て債務ではなく、期間が長い現地通貨建ての借り入れが大幅に増えている。
また、大半のアジア諸国は支出より貯蓄の方が多いという事実に助けられ、政府系ファンドや中央銀行などの地域の機関が国内金融システムに以前よりずっと強力なバッファーを与えている。
しかし、だからと言って新たなトラウマが生じ得ないわけではない。
ニューマン氏が述べているように「すべての危機は異なる姿で訪れる」のだ。
By By Josh Noble
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