2013年7月9日火曜日

中国版サブプライム危機:破綻寸前の地方政府、深刻な景気悪化はすぐ目の前

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JB Press 2013.07.09(火)  柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38150

地方政府から火がつく中国版サブプライム危機
景気後退の中で高まる金融システムリスク

 経済成長と経済制度改革の関係は、本来ならば経済成長の各段階に合わせて、順次、関連制度を改革し整備していくべきである。
 成長が遅れている経済では、どんなに優れている制度を構築しようとしても、思うように機能しないだろう。
 逆に、経済成長が進んだ国で制度の構築が遅れた場合、経済成長はたちまち阻害されてしまうはずである。

 中国の場合、江沢民政権下で朱鎔基元首相は剛腕を振るって大胆な制度改革を推し進めながら経済成長を図った。
 結果的に、その後の胡錦濤政権下の10年間で高成長が実現できた。
 しかし、胡錦濤政権においてはほとんどの改革が先送りされ、
 今となって、その歪みが問題となって経済成長を妨げている。

 今、中国では家計の貯蓄率が30%を超え
 一方、銀行や金融市場では資金が不足していると言われている。
 これはまったく不可解な現象である。

 上海で開かれている国際金融フォーラムで、尚福林銀行業監督管理委員会主席は、
 「銀行に流動性がないわけではない。
 システムに欠陥があるからだ」
と問題の存在を認めた。
 すなわち、金融市場で資金が不足しているのは、
 資本効率が低いため資本の循環が滞っている
からである。

■金融機関が地方政府に過剰融資

 国際金融市場では、中国版サブプライムローン危機が起きる可能性について警鐘が鳴らされている。

 アメリカのサブプライムローン危機は次のように発生した。
①.信用力の低い低所得層が返済能力をはるかに上回る金融機関からのローンで住宅を購入した。
②.その住宅価格が下落したことで住宅の担保価値が下がり、貸し手の金融機関のバランスシートに巨額の不良債権が生じたのである。

 それに対して
 中国の金融システムリスクは、
 地方政府がその返済能力以上に金融機関から資金を調達したことに端を発している。
 今となって、地方政府が抱える債務の相当部分は返済不能に陥っている。

 会計検査院にあたる国家審計署の調べによると、全国36地方都市は債務不履行を起こす恐れがあると言われている。
 すなわち、金融機関などからの借り入れについて元利払いをしていかなければならないが、土地の払い下げの売り上げが成立せず、資金返済が困難になっている。

 共産党一党独裁の中国では、地方政府の破綻は考えにくい。
 だが、貸し手の金融機関はその債権の一部を回収できず、不良債権になる可能性が高くなる。
 金融機関の資金は預金者の預金がほとんどであり、最終的に預金者は銀行の不良債権のツケを払うことになる。

■資金調達で手足を縛られている地方政府

 実は、中国の現行の法制度では、地方政府は債券を発行したり銀行から資金を借り入れたりすることが禁止されている。
 にもかかわらず、
 地方政府はどのようにして巨額の資金を借り入れたのだろうか。

 例えば、北京市政府は、地下鉄や道路の整備などのインフラ投資の需要が旺盛である。
 だが、インフラ施設を整備するための資金需要があるにもかかわらず、法的には債券の発行や銀行から資金を借り入れることが禁止されている。
 そのため北京市政府は工商銀行(中国最大手の国有商業銀行)に融資を申し込んでも、受け付けてもらえない。
 そして、地下鉄を建設する目的で債券を発行することもできない。

 なぜ、地方政府の資金需要を無視するような法律が作られたのだろうか。

 それは、地方政府に起債の権限を認めた場合、地方政府が勝手に資金を集める、いわゆる「乱集資」の心配があるからだ。
 中央政府および全国人民代表大会(立法府)は乱集資を防ぐために、債券の発行と銀行からの資金借り入れを禁止する法律を施行したのである。

 「改革開放」の初期段階においては、金融関連の法律が整備されておらず、金融市場も十分に発達していなかった。
 その中で地方政府による債券発行などを認めれば、確かに金融秩序を混乱させる恐れがあった。

 しかし、「改革開放」政策が始まってすでに三十余年経過している。
 銀行以外にも、債券市場はそれなりに成長している。
 にもかかわらず、地方政府による起債を禁止する関連の法律は改正されないままである。

 地方政府としては、何としても資金を調達しなければならない。
 このままでは経済発展が大きく遅れることになる。
 地方の首長にとっては、経済成長率こそ自らの業績を証明することができるため、何としてもインフラを整備し、経済成長を図りたいというわけである。

■「上に政策あり、下に対策あり」

 中国では「上に政策あり、下に対策あり」という言い方がある。
 つまり、地方政府は法律への対策として様々な投資会社を設立する。
 その会社の名義で銀行などから資金を調達するのだ。
 これらの投資会社は、中国では「融資平台」、すなわち、資金を調達するプラットフォームと呼ばれている。

 だが、新たに作った投資会社が資金を調達しようとしても、差し出せる担保の資産はほとんどない。
 担保の資産がなければ、銀行は融資の申し込みに応じてくれない。

 そこで、胡錦濤政権に入ってから温家宝前首相は、地方政府が財源を確保できるように、都市再開発に伴う土地使用権の払い下げの売り上げを地方政府に帰属させた。
 その結果、地方政府は土地使用権の払い下げの売り上げの見込み額を担保として、銀行などの貸し手金融機関に差し出すことができるようになった。
 銀行は安心して地方政府の傘下にある投資会社に融資を行った。

 温家宝前首相の時代、経済成長を図るために何度も金融緩和政策を実施した。それによって銀行と金融市場では金余りの現象が起きた。銀行にとっては、地方政府が設立した投資会社に融資するほど安全な資金運用はないと思われていた。たとえ、その融資の一部が焦げついても、政府に責任を問われる可能性は少ない。結果的に地方政府は担保の能力をどんどん増やし、銀行からの融資額も膨張してしまった。

 なお、地方政府が設立した投資会社は、金融市場からの借り入れの一部を本来のインフラ整備に投資せず、住宅など不動産開発に投資した。
 なぜならば、銀行からの借り入れ金利は6%以上に上り、どんなインフラ投資でも、これ以上の利回りを実現することができなかった。
 しかも、監督・管理がきちんと行き届かないため、これらの投資会社の一部はインフラ整備よりも、利益を追求する財テクに走ったのである。

■景気後退の中で手詰まる政策

 金融市場で資金が不足していると言われる中、李克強首相はインフレ再燃と金融機関および地方政府のモラルハザードを警戒して、「安易な金融緩和は実施しない」と繰り返し強調している。
 その意気込みは評価できるが、市場との対話として十分ではない。
 その結果、上海株式市場の株価総合指数は暴落し2000ポイントを割ってしまった。
 ちなみに2007年、同指数は6140ポイントの最高値を記録している。

 株式市場の動向を見る限り、中国のこの先の景気動向は決して楽観視できない。
 当初、新政権が誕生すれば、2013年の経済成長は持ち直すだろうと言われていた。
 だが、第1四半期の経済成長率は7.7%と低下傾向が続いている。
 第2四半期の経済成長率はまだ発表されていないが、大きな改善は期待できない。

 こうした中で、金融システムリスクが急速に増幅している。
 尚福林主席の言葉の通りに、
 「流動性が不足しているわけではなく、システムに欠陥がある」
とすれば、そのシステムを改善する改革に取り組まなければならない。
 中国の金融システムは明らかに現在の発展段階に合致していないと思われる。

【柯 隆 Ka Ryu】
富士通総研 経済研究所主席研究員。中国南京市生まれ。1986年南京金陵科技大学卒業。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。主な著書に『中国の不良債権問題』など。



JB Press 2013.07.09(火)  川島 博之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38144

長い停滞の入り口に立った中国
破綻寸前の地方政府、深刻な景気悪化はすぐ目の前

 “中国バブル崩壊”そんな記事が雑誌に掲載され、テレビのニュース番組もそのような特集を組んでいる。
 そこでは「シャドーバンキング」という耳慣れない言葉が使われているが、それは当局の監督を逃れた簿外融資を意味している。
 簿外融資は日本でバブルが崩壊したときにも問題になったが、中国の簿外融資は規模が違う。
 総額は、GDPの半分程度との報道も耳にする。
 おそらく、中国政府もその正確な額をつかみかねているのだろう。

 今後、中国経済はどのような展開を見せるのだろうか。
 ここでは、少々大胆であるが、私なりの予測を述べてみたい。

■不動産バブルを作った投資主体は地方政府

 中国バブルの崩壊を考える上で決定的に重要なのは、土地が公有制になっていることである。
 中国の土地は基本的には地方政府が所有している。
 このことはバブル崩壊を考える上で極めて重要である。

 中国の株式市場の時価総額は2012年の年末時点で366兆円(1ドル100円換算)であり、中国のGDPの45%に相当する。
 一方、中国の地価総額の推定は難しいが、筆者は昨年265.7兆元と推定した(拙著『データで読み解く中国経済』、東洋経済新報社、2012年、204ページ参照)。
 1元を16円として計算すると4251兆円になり、株式時価総額の11.6倍にもなっている。

 筆者の推定が正しいと強く主張するつもりはないが、地価総額が株式時価総額を大きく上回っていることは事実であろう。

 中国のバブルは不動産を巡って生じている。
 そして、その不動産の所有者は地方政府である
 中国経済は資本主義のように見えて、その基本に計画経済がある。
 地方政府は中央政府が示す経済成長目標を達成しなければならない。
 そのために、消費や工業部門の成長が思わしくない時には、公共投資によって「つじつま」を合わせてきた。
 シャドーバンクからの借り入れの多くは、その費用に使われたと考えられる。

 公共投資に無駄が多かったことは、地方に行くと立派な市庁舎や会議場などを目にすることからも分かる。
 また、それは「鬼城」と呼ばれる、人の住んでいない高級マンション街の建設にも使われたようだ。

 中国における投資の主体は地方政府である。
 このことは、日本でバブルを作った投資主体が不動産業や銀行であったこととは異なる。
 この違いは大きい。
 地方政府といえども政府である。
 そして、そのトップは全て中央から派遣されている。
 中央政府の出先機関なのだ。

 不良債権が積み上がったからと言って、本店である中央政府が支店を破綻させることがあるだろうか。
 そんなことをすれば、非難はトップを派遣し、かつ達成不可能な経済目標を押し付けてきた中央政府に及ぶことになる。

 日本でバブルが崩壊した時を思い出してもらいたい。
 誰の目にもバブルの崩壊が明らかになったのは、「住専」が破綻した時である。
 農協が「住専」に貸し込んでいたために、その救済が問題になったのだ。
 1996年の国会は大もめにもめて、今では「住専国会」と呼ばれている。

 中国でも地方政府が倒産の危機に瀕して、それが大きな問題に発展することがあるのであろうか。
 マスコミで語られる「7月危機」とはそんな状況を言っているのかもしれないが、「7月危機」が発生することはない。

 中国で「住専国会」が開かれることはない。
 日本の国会に当たるものは人民代表大会だが、それは議論をする場ではない。
 党の決定を人々に知らしめる場だ。
 そして、中国の中央銀行も民間銀行も共産党の指導の下にある。
 日本でバブル処理が大変になったのは、処理のために税金を投入するのには国会に関連法案を可決してもらう必要があったためだ。

 しかし、中国ではそのような手続きは必要ではない。
 共産党常務委員である7人が話し合った結果、必要ならば、いくらでも資金を投入することができる。
 そして、その議事録が公表されることはない。共産党は好きな時に好きなだけ、秘密裏に公的資金を投入することができる。
 そう考えれば、「7月危機」など起こりようがない。

■共産党の手に負えない景気悪化が迫り来る

 それでは、中国はバブルが崩壊しても成長を続けるのであろうか。
 答えはノーである。
 崩壊しそうになった地方政府に際限なく公的資金を投入すれば崩壊は防げるのかもしれないが、インフレが加速されよう。
 デフレに苦しむ日本とは異なり、中国の民衆はインフレに苦しんでいる。
 そのために、インフレ率の上昇は政情不安につながることになる。

 だから、一気にバブル処理を行うことはできない。
 中央政府は地方政府にそれなりの罰を与えながら、少しずつ不良債権の処理を進めるつもりだろう。
 もちろんそれは秘密裏に行われる。

 大量の不良債権を作った高官は汚職を理由に処罰される。
 中国の高官は大なり小なり汚職を行っているから、粛清しようと思えばいくらでも材料を見つけることができる。
 経済運営に失敗したのであれば共産党にも責任があるが、汚職であれば個人の責任だ。
 このような手続きによって、表向きは平静を保ちながら、少しずつ不良債権処理を進めようと考えているのだと思う。

 だが、地方政府が派手な投資を行わなくなれば、中国景気は一気に冷え込む。
 ここ20年ほど、中国のGDPの約半分は投資から生じていた。
 そして、その多くは地方政府が行ってきたのだ。
 中央政府のさじ加減にもよるが、地方政府の投資が委縮すれば景気は一気に悪化する。

 西遊記に出てくる「お釈迦さま」のように万能の力を持っていると思い込んでいた共産党も、バブルが崩壊する過程では、自らが全能でないことを思い知ることになる。

 今後、景気後退がこれまで以上に鮮明化する。
 バブルが大きかっただけに、その回復には長い時間を要しよう。
 ちょっとやそっとの対策ではどうにもならない。

 そして、それは中国の政治制度や外交方針、人々の考え方や文化にも大きな影響を与えることになろうが、そのことについては次回に述べたいと思う。

【川島 博之 Hiroyuki Kawashima】
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など



減速する成長、そして増強される軍備


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