2013年7月10日水曜日

中国人留学生:エリート集団だった海亀族、今や就職もままならず

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●20日、中国の海外留学者が帰国したがらない理由は役人の「失敗を恥とみなす」心理にあるとみられている。資料写真。


JB Press 2013.07.10(水) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38190

中国人留学生:海亀族の苦境
(英エコノミスト誌 2013年7月6日号)

 海外留学から戻ってくる学生は現代中国の発展を支えてきた。
 では、今なぜ彼らは労働市場で憂き目に遭っているのだろうか?

 「私は1980年にポケットに3ドルしか持たずに中国を出た」。
 こう振り返るのは李三琦氏。
 文化大革命の暗い時代の後、海外で学ぶことを許された最初の留学組の1人だ。

 このエリート集団の大半がそうであるように、李氏も優れた成績を収め、複数のハイテク企業を起業しながら、テキサス大学で誰もが望む地位に上り詰めた。
 そして世界に通用する多国籍企業の創設・育成に携わるチャンスに引かれて帰国し、現在、中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の役員を務めている。

 李氏は
 「海亀(ハイグイ)」(北京語では「海帰=海外から戻ってくる」
という語句の発音が、海亀の発音と似ている)の見本のように思える。
 海亀族は中国で長年、先端技術を持ち帰ることで称賛され、確実に国内の労働市場で相場を大幅に上回る報酬を得ていたが、もはや、そうではなくなった。

■エリート集団だった海亀族、今や就職もままならず

 海亀族が押しなべて称賛されるようなことはなく、賃金格差も縮まり、就職できない人さえいる。
 今は海亀族を「海帯(ハイダイ、昆布の意)」と呼ぶべきだと陰口を叩く向きもある。
 海亀族の過去の貢献を考えると、驚くべき変わりようだ。

 中国の帰国留学生団体で、今年創立100周年を迎える欧美同学会の王輝耀氏は、
 海亀族の帰国には5つの波があったと言う。

 19世紀の最初の波は、中国初の鉄道建設業者や最初の大学総長を生んだ。
 1949年以前の2番目と3番目の波は、中国国民党と中国共産党の多くの指導者を輩出した。
 1950年代にソ連圏に留学した4番目の波は、江沢民や李鵬のような指導者を生み出した。

 現在の波は1978年に始まり、断トツに大きな波になっている。
 1978年以降、「約260万人」の中国人が海外に留学した。
 海外への大量脱出は最近一段と増え、年間約40万人に達している。
 留学生の過半数は外国にとどまるが、
 「帰国した110万人」は中国に変化をもたらしてきた。

 王氏は、最初の3つの波が中国に大変革をもたらし、4番目の波が国を近代化させたのに対し、
 5番目の波は中国をグローバル化させていると論じている。

 海亀族は、中国経済を世界と結び付けることに一役買っている
 彼らは百度(バイドゥ)のような有力ハイテク企業を創業した。
 海亀族の多くは多国籍企業の中国部門の経営幹部になっている。
 彼らは海外の商業的、政治的、大衆的な文化と中国を繋げることに貢献している。

 それではなぜ、留学組の重要性が薄れてきたのか? 
 いくつかの研究によると、海亀族は平均して、国内の新規採用者と比べた報酬格差が以前より小さく、職位が低い仕事に就くにも長い時間待たねばならばならなくなっている。
 大卒者の就職が一様に厳しくなっていることも理由の1つだ。

 もう1つの理由は、中国の国内市場が本格的に離陸するに従い、電子商取引などの産業が、長年海外で過ごした人にとっては馴染みのない形で発展を遂げたことだ。

 ベンチャーキャピタル、啓明創投(チミン・ベンチャーズ)のギャリー・リシェル氏によると、10年前にはシリコンバレーから戻ってきた人だけに資金を出していたような投資家が、今では中国の大学を卒業した起業家を支援しているという。
 こうした起業家の方が、中国国内の消費パターンやゲームの習慣、「微博(ウェイボ)」や「微信(ウェイシン)」といったソーシャルメディアに詳しい。

 中国経済が急成長するにつれ、中国の経営者は劣等感を克服し始めている。
 中国のソーシャルメディア大手、騰訊控股(テンセント)の上級幹部は、いまだに外国企業から海亀族を引き抜いているが、彼らは国内のエンジニアを使うのに苦労していると言う。

 欧州のある投資銀行家は、海亀族は透明性や実力主義、道徳規範というような古臭い欧米の概念に固執することが多く、猛烈なダーウィン主義経済においては、それが不利に働くと話す。
 国内の人材は上司や顧客が望むことなら何でも喜んでするからだ。

 中国に事業所を置く外国企業でさえ、採用する人材を選り好みするようになってきた。
 ドイツの経営コンサルティング企業ローランド・ベルガーのヤニーク・グルムロン氏は、海外駐在員に対する気前の良い報酬体系を葬り去った多国籍企業の利益圧迫が海亀族に与えられる優遇給与の大幅削減にもつながったと見ている。

■凡庸な海亀たち

 さらに別の説明もある。
 直近の波で帰国した学生の多くは資質が低いというのだ。
 以前は本当に優秀な学生のみが留学を許可されており、そのため政府奨学金の獲得競争が熾烈を極めた。
 しかし所得増加に伴い、凡庸な学生を抱える多くの家庭が、就職見通しを改善しそうにもない怪しげなレベルの大学の学位に多額のカネをつぎ込んでいる。

 さらに悪いことに、欧米経済が低迷していることもあり、多くの留学生が就業経験のないまま帰国している。

 雇用条件を満たさないような留学生が大量に帰国する一方で、
 聡明な人たちは海外にとどまっている。
 米国国立科学財団(NSF)が出資した調査では、
 米国で博士号を取得した中国人の92%が、卒業後5年経った時点で米国にとどまっていることが分かった。
 インド人では、その割合が81%、
 韓国人は41%、
 メキシコ人は32%だ。

 こうしたスーパースターを呼び戻すために、中国政府は多額の補助金やその他の厚遇措置を与える「千人計画」に大金をつぎ込んでいる。
 強大な権力を持つ中国共産党中央組織部は、地方の共産党幹部や大学の上層部に対し、エリート獲得ノルマの達成を要求している。

 前出の王氏と、香港科技大学の崔大偉氏は近く発表される論文で、優秀な人材を獲得する努力において、中国は「恐らく世界一積極的な国だ」と論じている。

 この取り組みはうまくいくだろうか? 
 効果のほどは疑わしい。
 一連の政策にもかかわらず、帰国する起業家は多くの問題に直面する。
 人件費と地価は高騰しており、依然として知的財産の盗用が横行し、汚職が蔓延している。
 トップクラスの科学者が帰国する例は、ほとんどない。

■中国政府が本当にすべきこと

 王氏と崔氏の論文が、その理由を説明している。
 もし中国が最高級の頭脳を本国に呼び戻したいのなら、採用や予算を担当する政治色の強い役人の権力を打破するために「学術や科学の制度機構を抜本的に改革する必要がある」という。

 厳しい真実は、海外に暮らす中国人が概して、母国に対してどっちつかずの態度を示しているということだ。
 ファーウェイの李氏は一見すると典型的な海亀族だが、妻子は今も米国に住んでいる。

 中国当局者はただ補助金をばら撒くだけでなく、むしろ法の支配を徹底し、汚職を根絶し、中国の空気と水と食品の汚染をなくした方がいいかもしれない。
 そうすれば、海亀族は間違いなく気付くはずだ。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。


 海外からの帰国留学生を「海亀族」というらしい。
 国内大学を出て就職にあぶれた人たちを「アリ族」という。
 ちなみに、アリ族はそのうちネズミ族になるという。
 都市の底辺で生きていくことになった人たちを指すという。
 
 上の記事を単純にまとめると、海外留学生の「58%」は中国には戻ってこない(150/260=0.58)。
 つまり、故国を見捨てる。
 さらに、博士号を取得した優秀者の「92%」は中国に戻らない。
 韓国では6割が帰国するという数字と比較すると、中国は異常である。
 つまり、中国において優秀な人材はどんどん祖国を離れていくということになる。
 そして、外国では使い物ならない低級な人材だけが帰国せざるを得なくなっているということになる。
 問題は「アリ族」や「海亀族」といった、レベルは別にして高等教育を受けた人たちが大量に巷に放出されることの危険性である。
 質は悪いが量が大きいとそれはすぐ勢力になる。
 それも国内においては優秀な勢力を形成することになる。
 社会問題としては危険極まりない芽が撒き散らされていることになる。


レコードチャイナ 配信日時:2013年7月22日 7時20分 
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=74526&type=0

中国の海外留学者が帰国したがらない理由、
役人の「失敗を恥とみなす」心理にあり―米紙

 2013年7月20日、米紙クリスチャン・サイエンス・モニターはこのほど、
 「中国人はどのように失敗に対応するか」
と題したコラムを発表した。
 これによると、中国の役人が承認したがらないと「失敗」だという。
 参考消息(電子版)が伝えた。

 江蘇省無錫市では、海外にいる中国人企業家や科学者に帰国してもらい、無錫での起業を促すという「530プロジェクト」があるが、同市の渉外事務監督管理機構はこのプロジェクトを変更するよう強く要求しているという。
 なぜ反対するのかを調べたところ、多くの帰国者が無錫市での起業に失敗しているからだという。

 ハーバード・ビジネス・スクールの調査によると、米国では新会社の40%がすぐに倒産するというが、米国では小さい会社のリスクの一つとして自然な結果であると捉えられるのに対し、中国では役人の失敗によるとみなされる。
 また、世界各地の起業リスクに詳しい人間にとって、半数の創業者が1、2年以内に事業を諦めることは意外なことではない。
 しかし、中国の役所の態度は深層心理を反映したものであり、長期的に見て、中国が海外留学組に帰国してもらおうという計画の大きな障害になる可能性がある。

 米国や欧州の先端科学者やハイテク企業家はリスクを負うことに慣れており、失敗も想定の範囲内だとみなし、スポンサーや投資者も同様の視点を持っている。
 ところが中国では、失敗は「恥」を意味し、役人は極めて少ない状況の下で失敗のリスクを負う。
 中国の優秀な科学者や企業家が帰国したがらない理由はこのあたりにあるのかもしれない。


 優秀な人材が中国へ戻らないという理由はおそらく、
 「優秀な人材は粛清される可能性が大きい」
からだと思う。
 まして、失敗などしたら目も当てられない。
 せっかく海外で安心して自分の仕事にいそしめるのに、なにも危険がいっぱいの中国に帰ることもない、というのが一般的な心理ではないだろうか。



減速する成長、そして増強される軍備


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