2013年7月11日木曜日

中国が世界を買い占めない理由:、だがいずれ中国に包み込まれることになる

_


JB Press 2013.07.11(木)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38201

中国が世界を買い占めない理由
世界経済はまだ先進国の支配的企業が牛耳っている
(2013年7月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 西側諸国は中国に怯えている。
 しかし、中国の目にはこの世界がどのように映っているのかということに、西側諸国が着目することはめったにない。
 確かに、中国は経済の面で長足の進歩を遂げた。
 だが、中国人が今も目にしているのは、先進国に牛耳られている世界経済だ。

 中国の視点から世界を眺めることができる数少ない西洋人の1人に、ケンブリッジ大学のピーター・ノーラン教授(中国発展論)がいる。
 昨年上梓された示唆に富む著作*1の中で、ノーラン教授は中国に対する大きな恐怖感の1つを取り上げた。
 つまり、中国が世界を買っている、という不安である。

 中国は世界を買ったりしていない、
 我々は中国の中に入り込んでいるが、
 中国は我々の中に入り込んでいない
――というのが、教授の答えだ。

 これがどういう意味なのかを理解するには、技術進歩を原動力にグローバル経済の統合が進んだ過去30年間に起こったことをノーラン教授がどう解釈しているのかを理解しておかねばらない。

■バリューチェーンの頂点に君臨する先進国の支配的企業

 教授によれば、世界経済は、企業の合併・買収(M&A)と外国直接投資(FDI)による少数の支配的企業の登場により、大きな変化を遂げている。
 そして、そうした巨大企業のほとんどは先進国の企業だという。

 新しいグローバル経済の中核には、ノーラン教授の言う「システムインテグレーター」企業が鎮座している。
 圧倒的なブランド力と卓越した技術力を持ち、世界中の中間層に財やサービスを提供するバリューチェーンの頂点に君臨する企業のことだ。
 また、これらのグローバル企業は自分たちのサプライチェーンに大きな圧力を加えており、そこでも企業の整理統合が進んでいる。

 ノーラン教授は2006~09年のデータを調べ、大型民間航空機製造業と炭酸飲料製造業には世界的な支配的企業が2社存在すると結論づけた。
 また移動体通信インフラやスマートフォンの分野ではこれがわずか3社であり、
 ビール、エレベーター、大型トラック、パソコンの分野では4社、
 デジタルカメラでは6社、
 自動車と製薬では10社だと考えた。

 これらの分野では、支配的企業が世界市場で50~100%のシェアを握っている。
 これ以外にも多くの産業で企業の整理統合が進み、同程度のシェアの集中が進んでいるという

 部品納入業者の間でも、これとほぼ同じシェアの集中が見受けられる。
 例えば、航空機製造業における支配的企業は
 エンジン製造の分野で3社、
 ブレーキで2 社、
 タイヤでは3社あり、
 座席で2社、
 ラバトリー(化粧室)では1社、
 ワイヤリング(内部配線)では1社
だという。

 このように主要な部品をごく少数の支配 的企業が世界中に供給するという構図は、自動車製造、情報技術、飲料製造など多くの業界で観察される。

 このように、今ではグローバルな製造・販売組織が1つのシステムインテグレーター企業の傘下に入っている。

 教授いわく、このシステムインテグレーター企業は
 「多数の重要な特性をいくつか兼ね備えているのが普通だ。
 特に、新しいプロジェクトの資金を調達する能力や、技術面でのリーダーシップを維持するための多額な研究開発費を調達したりグローバルブランドを開発したり、最新の情報技術に投資したり最も優秀な人材を集めたりするのに必要な資源などがそれに当たる」。

 さらに、
 「世界の最上位企業1400社による研究開発費の合計額のうち、
 5分の3以上は最上位100社のものであり、
 これら100社はすべて高所得国の企業だ。
 これらの企業の研究開発が、資本主義的グローバル化の時代における世界の技術進歩の礎になっている」
という。

 これらの企業は諸外国、とりわけ中国に巨額の投資を行っている。
 その過程で、本国に由来する特徴や本国への忠誠心を失いつつある。
 そのため本国の政府は「自国の」企業への課税や規制がこれまで以上に難しくなっていることに気づき、企業と政府の間に緊張が生じている。
 だが、それでも企業は、本国に由来する特徴を持ち続けているし、本国の文化に根を下ろしたままだ。

 この新しい世界に中国はどのように収まっているのだろうか? 
 確かに中国は大変な経済発展を遂げたが、この成功は、
世界の製造業者に自国の労働者と市場を提供する用意と能力という土台の上に築かれたもの
だ。

■対外FDI残高でも高所得国が圧倒的な存在感

 そのため2007~09年の統計によれば、中国の工業で生まれた付加価値のうち28%は外資が投資した企業によるものだった。
 ハイテク産業の
 生産高の66%、
 輸出の55%、
 そして新型ハイテク製品の輸出の90%
も、外資系企業によるものだった。
 従って中国は、外国人が管理するシステムの重要な貢献者なのだ

 もし先進国の市民や政府がこうしたグローバル企業に疑いの目を向けているとしたら、中国の人々の視線はもっと不信感に満ちているに違いない。

 中国は世界を買ったりしていない。
 1990年から2012年にかけて、世界の対外FDI残高は2.1兆ドルから23.6兆ドルに跳ね上がった。
 2012年時点で、高所得国がまだ全体の79%を占めていた。

 2012年には、米国の対外FDI残高が5.2兆ドル、英国が1.8兆ドルに上ったのに対し、中国のそれは5090億ドルだった。
 中国のネットのFDI残高(対内FDI残高と対外FDI残高の差)はマイナス3240億ドルと、大幅な流入過多だ。
 2009年には、中国の対外投資の68%が香港向けとされていた。

 ノーラン教授が指摘するように、
 「中国企業は国際的な大型M&Aで、その存在感の欠如が目立っている」。
 天然資源の不足を考慮し、中国はこの分野で対外投資を行っている。
 だが、天然資源の分野でさえ、中国の対外投資の規模は、支配的な外国企業のそれと比べると大きく見劣りする。

■まだ他者のノウハウに大きく依存する中国経済

 この分析は何を意味しているのだろうか? 
 最も重大な意義は、中国は世界的に重要な企業をまだほとんど育成していないということだ。
 さらに言えば、先進国の既存勢力のリードがあまりに大きいため、
 中国が世界的に重要な企業を築くことは極めて難しい。

 従って、中国の観点からすると、
 中国経済の際立つ特徴は今も、他者のノウハウへの依存度の高さ
だということになる。
 そう考えると、その知識を手に入れようとする中国の必死の努力も説明がつく。
 もう1つ、この分析が意味しているのは、中国は「世界を買い占める」状況とは程遠いということだ。
 中国のインパクトに対する妄想は正当性を欠いている。

 それより意味深な疑問は、企業のグローバル化がかつてないほど進んだ世界において、
 企業が「自国のもの」ではないことを心配することに意味があるのかどうか、だ。
 その答えは「イエス」ではないかと筆者は思う。
 この点について中国が心配するのは妥当だ。
 企業は依然として国との関係を持っており、
 それが各社の行動を形作り、特に特定国の能力の開発における役割を形成する。

 しかし、中国ほど広大な国にとっては、この点は大半の国ほど大きな問題にならないかもしれない。
 結局のところ、ほぼすべてのグローバル企業は恐らく、いずれ中国に包み込まれることになるからだ。
 グローバル企業にとって、中国は活動の中核を成すため、中国の需要から逃れることは不可能になるのだ。

 実際そうなったとすれば、それは自然な統合プロセスの結果だ。
 世界経済の将来、そして、まさしく世界の将来にとって、世界各国がこれほど深く絡み合った状態が一段と進化することは望ましいことだ。
 我々は冷静さを保ち、このまま進み続けるべきだ。

By Martin Wolf
© The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.



JB Press 2013.07.11(木)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38204

中国の景気減速でドイツに大打撃
(2013年7月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ユーロ圏の危機の最中、ドイツは安定した岩のような存在だったが、今、中国の景気減速に大きく揺さぶられている。

 6月19日以降、ドイツ株は欧州平均よりずっと大きく下げてきた。
 6月19日というのは、米連邦準備理事会(FRB)が資産購入を縮小したいとの考えを表明した日だが、中国の資金不足が一気に世界的な関心を集め、中国政府がいかに経済のブレーキを踏んでいるのかを巡る不安が高まったタイミングでもある。

■ドイツ株売りの背景にダブルパンチの懸念

 7月9日には、さらに悪い知らせが舞い込んだ。
 国際通貨基金(IMF)が今年と来年の中国の成長率予想を下方修正したのだ。
 ドイツ銀行の試算によれば、2012年1~3月期と比べた今年1~3月期のドイツの対中輸出の落ち込みは、既にドイツの国内総生産(GDP)の0.5%に相当しているという。

 ドイツ企業の対中輸出は、中国の輸入全体のペースより急速に落ち込んでいる。
 ドイツ企業が特に影響を受けやすいのは、投資財や高級車を扱っているためだ。

 危ないのは、中国政府が消費を喚起することなく並外れた投資水準を引き下げ、ドイツにダブルパンチをもたらすことだ。
 たとえ消費が上向いたとしても、中国のドライバーたちは、あまり派手でない車に切り替える可能性がある。

 ドイツの株価指数DAXを構成する企業の利益の15~20%程度は中国関連だ。
 ドイツ株は必ずしも、輸出展望と足並みを揃えて動くわけではない。
 大規模な現地生産を手がける企業は、そうでない企業よりうまくやっていく可能性がある。

 だが、投資家はこれを手がかり材料として受け止めたようだ。
 UBSが公表している資金フローのデータによれば、この6月、ドイツ株は欧州諸国の中で最も激しい売り圧力をかけられた。

■政策面では必ずしも悪くない?

 これは、ユーロ圏の政策立案者にとって新たな問題が生じたということだろうか? 
 そうとは限らない。

 ユーロ圏諸国の中で、中国の景気減速から直接的に受ける影響が最も小さい国には、スペインなど、危機に見舞われた南欧の「周縁国」も含まれている。
 経済関連のニュースが一様に暗ければ、欧州中央銀行(ECB)がより大胆な政策行動を正当化するのが容易になるはずだ。

By Ralph Atkins
© The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.


 ユーロ圏でだだ一国、順調であったのがドイツである。
 その理由は中国進出による。
 中国はヨーロッパの中国進出に際し、ドイツのみを認証した。
 フランスは出られず、イギリスも同様である。
 たのユーロ諸国は逆に中国の安価な製品の氾濫によって地場産業が壊滅して、あのヨーロ危機という惨状を呈してしまった。
 つまり、中国の台頭によって儲けたのはドイツ一国であり、他の諸国は散々な目にあわされた、ということになる。
 そのドイツの打ち出の小槌が今年に入ってずっこけてきた。
 さて、これから中国とユーロ圏の関係はどうなっていくのだろう。
 まるで見えてこないというのが今の状況である。



減速する成長、そして増強される軍備


_