2013年9月6日金曜日

インドネシアはどうなる?

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JB Press 2013.09.06(金)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38634

インドの轍を踏むインドネシア
経済的成功に甘んじて何もしなかったツケ
(2013年9月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 インドネシアはよく次のインドだと言われてきた。
 人口2億5000万人のインドネシアは意欲的な消費者になる莫大な人口を擁する。
 インドと比べると民主化がずっと遅かったとはいえ、同じく民主主義国だ。

 また、やはりインドと同じように、経済成長の堅実な実績を牽引したのは、製品輸出ではなく内需だった。
 世界金融危機が勃発した時、両国の経済は大半の国よりもうまく嵐を乗り切った。

 ところが、ここへ来て突如、インドとの比較があまり甘美に聞こえなくなった。
 アジアの経済国としては、インドネシアはインドに次ぎ、国の経常赤字と資本流入への依存を懸念する市場から厳しい目を向けられるようになった。

 もっと根本的なところでは、市場の圧力は、持続的な発展のための政策基盤を築くことなく進んできたインドネシア経済の成長モデルについて厄介な疑問を投げかけている。
 こうした疑念は、低利資金と高いコモディティー(商品)価格の潮流で浮かんできたアジア、中南米、アフリカの多くの新興国にも同じように当てはまる。

■インドとインドネシアのよく似た経済構造

 人口が世界で2番目に多いインドと4番目に多いインドネシアの類似点は多い。
 インドネシアは何年も続いた貿易黒字が昨年末に突然終わり、今では多額の貿易赤字を計上している。
 2012年以降の急激な景気悪化は主に石炭やヤシ油などのコモディティー価格が弱含んだ結果であり、インドネシア経済は輸出依存型ではないという概念が崩れた。

 インドネシアと同じようにインドも、多額の外貨収入を生み出したり、同じくらい重要な雇用を創出したりする力のある高度な製造業を育成してこなかった。
 両国とも、人口ボーナスを享受しているはずだった。
 だが、経済が十分な雇用を生み出せない限り、若く、落ち着かない人口は恩恵というよりは呪いになり得る。

 インドの方が極端なケースだ。
 同国ではサービス業が経済成長の大半を担い、労働人口のわずか3分の1程度で国内総生産(GDP)の3分の2を生み出している(成人人口の半分以上は農民だ)。
 こうしたサービスの一部は、インドの強大なハイテク産業を経由して輸出されている。

 それでもインド経済は、すべての人が互いの洗濯をすることに依存したモデルの寓話上の南海の島と比較されても仕方ない。

 結局のところ、
 「iPad(アイパッド)」から発電所に至るまで、意欲的な中流経済が必要とするモノを国が作れなければ、それらを輸入するためにお金を稼がなければならない
のだ。

 インドネシア経済はインドほどサービス業に偏っておらず、産業別のGDP構成比はサービス業が39%に対して工業が47%だ。
 それでも、インドネシアが潜在力に見合う製造能力を築くために十分取り組んできたと言う人はいないだろう。

 インドと同様、工場の建設は、電力と輸送の制約、土地の取得に関係した問題、さらには収賄を促す過度に複雑な規制のせいで不必要に困難になっている。

 インドは少なくとも、アウトソーシングや医薬品などの分野で世界に通用する起業家を誇る。
 これに対し、最も成功したインドネシアの実業家は、政治家とのコネと確立した独占のおかげで楽に財を築くことができる既得権者だ。

 あまりに多くの人が原材料を出荷したり、免許に基づき外国製品を国内で売ったりすることに満足している。
 多くの場合、手っ取り早い金儲けの魅力が生産能力の改善や国造りの概念に打ち勝つ。

■政治的にも多くの類似点

 政治的な類似点もある。
 両国は指導者の2期目の任期の終わりに向けて躓きながら歩んでいる。
 インドのマンモハン・シン首相とインドネシアのスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は、両国が来年総選挙を実施する時点でそれぞれ10年務めたことになる。
 シン氏はかつてインドの改革を担うスーパーマンとしてもてはやされた。
 2期目になると、クラーク・ケントに戻ってしまった。

 小売りから保険に至るまで多くの産業を開放する試みが断続的に行われたが、外国人投資家は納得しなかった。
 外国勢はお役所仕事やころころ変わる租税政策、電力供給並みに当てにならない規制にうんざりしている。

 実業家と政治家の腐敗した関係に対する国民の怒りは立派だったが、強い指導力が欠如する中では、麻痺状態に陥って終わった。

 名前の頭文字から「SBY」と呼ばれる、陸軍大将から文民指導者に転じたユドヨノ大統領も2期目は惰性で進んできた。

 構造改革や首尾一貫した産業政策はほとんど実施されなかった。
 大統領は国家のために既得権と戦うことよりも、国のパワーブローカーを満足させておくことで政治的移行を確かなものにすることに没頭した。

 インドネシアは急進的な地方分権化を追求した。
 これは一定の優位性をもたらしたが、規制の階層と汚職の機会を増やすことにもなった。

 インドネシア政府が可決した1つの改革は、財政を赤字に転落させた燃料補助金を削減する策だった。
 燃料の値上げはインフレ率を上昇させたが、正しい対策だった。

 対象を絞れない補助金を通じて貧困層を助けようとすることもまた、インドネシアとインドに共通する政策のミスだ。

■インドネシアの方が2倍以上豊かだが・・・

 6%未満に落ち込んだインドネシアの経済成長率は、インドほどには大きく低下していない。
 インドネシアの国民は既にインド国民より2倍以上豊かで、1人当たり名目GDPはインドの1500ドルに対し、インドネシアは3900ドルに上っている。

 それでも、インドネシアはインドと同じく、前進しているべきだった時に足元の成功に甘んじて何もしなかった。
 新たな切迫感を持たない限り、長期的にその怠慢が高くつくことになるだろう。

By David Pilling
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